はじめてのいるか
ぶん・え
イナムラシンヤ
とおい とおい むかしのこと。
ちきゅうに ひとが うまれる まえ。
おおきな うみの まんなかで
あらたな いのちが うまれます。
しずかな うみの おくふかく。
そのとき くじらが いきをすいこみ
おおきな こえを あげました。
ごおー ごおー ごおー。
うまれてきたのは ふたごの あかちゃん。
でも くじらより からだが ちいさい。
みたことのない ちいさな くじら。
このふたごが はじめての いるか。
ふたごの なまえは ドル と フィン。
やんちゃな ドル と やさしい フィン。
くじらは ちいさな ふたごの いるかを
それは たいせつに そだてました。
あるとき ドルは じゃんぷを しながら
ふしぎな ことに きづきます。
「あれ? このばしょは どこだろう?
このせかいには うみ いがいの ばしょがある?」
ドルは くじらに いいました。
そらや りくちが あることを。
けれども しんじて くれません。
ドルは さびしく たちさりました。
やってきたのは いちわの かもめ。
かもめは ドルに いいました。
「りくには あまい くだものや
おいしい きのみが たくさんあるよ。」
ドルは むかえに いきました。
「フィンよ いっしょに りくへ いこう。
ぼくらは なにかが みんなと ちがう。
きっと りくちが ぼくらの いばしょ。」
フィンは しばらく めを とじました。
「いいえ ちがうわ。 わたしは みえるの。
ふたりが りくに あがったら 
みらいが おわりを むかえることを。」
ドルも しずかに めを とじました。
「ほんとだ。 みえる。 ずっと みらいだ。
ぼくらは ぼくらの ためだけに
みんなの いのちを うばってる。」
ドルは かもめに いいました。
「りくへ いくのは やめるよ とりさん。
けれども ひとつ おしえて ほしい。
とりさん うたを おしえてよ。」
あまい おかしは ないけれど
せんそうも いじめも かなしみも ない。
いまも いるかは へいわを ねがって
まいにち うたを うたっています。

Fin

あとがき

この作品は2010年の10月に書いたものです。
くしくもこの半年後に、恐れていた事態が現実になってしまいました。

この作品を書くに至ったきっかけは
ひとつの疑問からでした。

いるかはコミニュケーションを取ったり、道具を使用するなど
知的能力が非常に高く、いまだ解明されていない
潜在的可能性を秘めた生き物。

そのような能力を持った、いるかという生き物は
人間のように文化を発展させる事もできたのではないだろうか。
だとしたら、なぜその道を選ばなかったのだろう?

そこでふと、ひとつの考えが浮かびました。

もしかしたら、いるかには未来を予知する感覚があって
数万年先、あるいは数億年先が見えていたのではないだろうか。

もし、いるかたちが進化して陸に上がり、文化を発展させれば、
自分たちとっては、素晴らしい事かもしれません。
しかし、遙か遠い遠い未来に、この地球上で一緒に暮らしている
様々な動物や植物たちに迷惑をかけ、争いを起こし、
そして、何よりも今泳いでいるこの美しい海をも
失ってしまうということに気づいた。

だから、自ら進化することをやめた。

人類は失敗を繰り返しながら便利な道具を開発し、
より豊かな生活を追い求め、多くのものを犠牲にしてきました。

そして、豊かさを求め続けた挙げ句、
今回の原発事故では取り返しの付かない
大規模な環境汚染を犯してしましました。

わたしたちは学ばなければなりません。
失敗してから気づくのではなく、
もっともっと未来の事を考えて行動しなければなりません。
目先の欲に眩んだ眼を正し、
未来を見つめ、他の生きものたちを見つめ、
本当に何が必要で、何がいらないのかを考え、
欲張り過ぎない生き方、つまりは「節度」を持った生き方に
変えていかなければなりません。

そのためには、いるかのように地球全体を考えた
深い愛を育んでいく事が必要なのではないでしょうか。

このお話が、みなさんのこれからに役立てば幸いです。
そして、世界が平和になりますように。

2011年4月
イナムラシンヤ
http://shinyainamura.com/
@shinyainamura

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<お知らせ>
2011年6月『STUDIO VOICE』に掲載されました。
STUDIO VOICE - PICKUP
なぜ 帰ったのだろう 海へ
オルカ/イルカが教える、共存・協力する社会

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Text: Shinya Inamura
Illustration: Shinya Inamura
Web: Shinya Inamura
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